誰にでも理解できる「取り扱い説明書」の作成者

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●テクニカルライターは、パソコン関係のライターにあらず

テクニカルライターは、仕事の分野や内容を誤解されやすい職業の一つです。テクニカルライターをパソコン関係あるいはITなどの関連記事を書く人と認識しているのであれば、それは大きな間違いです。

テクニカルライターは、製品の「説明書」を作成する人を指します。取り扱い説明書や操作マニュアルなどを作成するのがテクニカルライターの仕事です。

パソコンの普及期、新製品の紹介や使い方の説明などの記事を初心者向けパソコン雑誌に書いていたのが、本業でパソコンやソフトなどのマニュアルを書いていたテクニカルライターでした。このため、現在でもパソコンやIT系の記事を書くライターをテクニカルライターと誤認している人が多いようです。

組み立て手順や操作の説明を淡々と書いていたテクニカルライターの文章は、決してクリエイティブなものではありません。それは、説明書には創造性は不要だからです。説明書に必要なのは、誰でもすぐに理解できる完結さであり、レトリックを駆使したクリエイティブな文面ではありません。

説明書においては、それを読んだ人が間違った操作をしないよう、誤解のない文章が求められます。このため、本物のテクニカルライターが書く文章は、誰が読んでも同じ操作や設定ができるよう、無駄を排除したものになります。

本業で説明書を作っていたテクニカルライターがパソコン雑誌に原稿を書き始めた当時は、パソコン雑誌の文面は文章が変だとの意見があちこちから発せられました。これは、テクニカルライターが持つ、ある種の職業病の匂いが感じられたからでしょう。

誤解や間違いの許されない説明書の文面を書くテクニカルライターは、執筆の場を一般書店で売られるパソコン雑誌に移しても、その文章スタイルを変えることはできませんでした。
説明書には、自分の意見や感想などを記すことは許されません。説明書に記載できるのは“事実”のみですから、その事実を正確に表現しようとして、日本語としてはやや滑稽な文章がパソコン誌上で展開されることになったようです。

●教えることが好きな人に向いた職業

ライターというと、文章を書くことが好きと思われがちです。しかし、テクニカルライターが文章を書くのが好きとは限りません。

テクニカルライターは、製品の説明書を作ります。しかし、そこに記されている文章は、操作を説明しているに過ぎず、書き手の個性は微塵も表現されていません。逆に、書き手の個性が満載のマニュアルでは、文章が煩雑になり、必要な操作手順などがすぐに理解できなくなります。これでは、説明書としては失格です。

「文章を書くのが好き」というのは、言い方を変えれば「文章で自分を表現するのが好き」ということでもあります。これを考えると、文章を書くのが好きな人は、テクニカルライターには向かないと考えるべきです。製品の取扱説明書やマニュアルには、書き手の個性を表現するスペースはありません。また、マニュアルをめくる人もそれを望んではいません。

逆に、テクニカルライターに向いているのは、何かの手順や方法を人に教えるのが好きな人です。テクニカルライターが制作するマニュアルは、それを見る人が確実に操作を行えるようにするための説明書そのものです。つまり、ある操作をいかに少ないステップで誰にでも確実に操作できるように説明するかがテクニカルライターの仕事であり、腕の見せ所というわけです。これは、教えることが好きな人にピッタリです。

製品を安全かつ正しく使ってもらえるようにするのがテクニカルライターの仕事ですから、時には、テクニカルライターは製品に対して説明書の添付を行わないという提案をすることもあります。

最近の例では、iPhone がそれに該当します。iPhone をお持ちの方はお分かりでしょうが、このスマートフォンには説明書の類が付属しません。しかし、それでも問題はありませんでした。ごく一般的な使い方であれば、説明書なしでもiPhoneの利用に問題はありません。

今後、テクニカルライターの仕事は、このように製品のデザインやインターフェイス全体を網羅した、もっと広いものになるはずです。テクニカルライターの最終的な目的は、製品を手にした人が確実にその品物を使えるようにすることです。現在は製品が複雑なので説明書が必要ですが、製品そのものを洗練させると、iPhoneのように説明書が不要の製品がリリースできます。

テクニカルライターは、ユーザーが陥りがちな操作のミスや作業の流れを熟知しています。この知識は、説明書のいらない製品の開発に大きく貢献するでしょう。

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